もっと知りたい時計の話 Vol.44

さまざまな時計、その素晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。

みなさんは、さまざまな家電機器の中にも「時計」があることをご存知ですか。もしかしたら、あまりに「当たり前」なので、そのことを意識せずに、毎日使っているかもしれませんね。今回はそんな「家電機器の中の時計」の話です。

「朝7時」など指定した時間ぴったりにご飯を炊き上げてくれる炊飯器。暑い夏、ベッドに入って2時間後に自動的に運転をやめて身体の「冷えすぎ」を防いでくれるエアコン。指定した時間までに洗濯物を洗い上げ、乾燥までしてくれる洗濯乾燥機。

こうした家電機器の中には「時計」が必ず組み込まれています。(正確にいえば、時計の機能が。)そして機器を最初に使い始めるとき、現在時刻とタイマーを設定しておくと、指定した時間ぴったりにお願いした仕事を完了させてくれます。

こんなふうに家電機器の中に時計の機能が組み込まれるようになったのは今から50年ほど前、1970年代以降のことです。そしてこの時計の機能、さらにそのほかのさまざまな機能をコントロール(制御)しているのが、わずか数ミリ角のシリコン製のチップの中にコンピュータの電子回路を組み込んだ「マイクロコンピュータ(マイコン)」と呼ばれる電子部品と、このマイコンのために書かれたソフトウエア(プログラム)です。表からは見えませんが、時計機能のある家電の中には、必ずこうしたチップが組み込まれ、働いているのです。

マイコンは1958年に発明されたIC(集積回路)、さらにそこから進化したLSI(大規模集積回路)の技術を使って、1971年に電卓用としてインテル社で発明されました。その後、大量生産されて驚くほど安くなったマイコンは、家電からモノ作りの現場、さらにクルマなどあらゆる分野で「マイコン革命」を起こします。


1971年11月15日に発表された世界最初のマイコン。アメリカ・インテル社製の「intel 4004 マイクロプロセッサ」。ここから「マイコン革命」が始まりました。この中にある3mm×4mmのチップの上には2250個のトランジスタが作り込まれていました。

マイコンとプログラムを使って機能を制御する。この方法は、電卓や家電やオーディオ機器から自動車、さらにモノづくりに使う大型の工作機械まで、ありとあらゆるモノに導入されました。その結果、どの機器も機能が驚くほど進化し、しかも小型化、低価格になりました。その進化はまさに「革命」と呼べるもの。いまではだれもが当たり前と思っていることが、それ以前は、同じ機能を実現しようとすると、とんでもないコストがかかるので、機器の価格も驚くほど高いものになっていたのです。そして、この革命を起こしたマイコンのチップは「産業の米」と呼ばれ、現代の文明を支える、小さいけれど絶対に欠かせないものになります。

たとえば、マイコンを搭載する前の電気炊飯器は、細かな火力の調整などできませんでした。マイコンを使わずに細かな火力の調整を実現しようとすれば、とても複雑な「機械仕掛け」が必要でした。しかし、マイコンで制御するのであれば、細かく火力を調整するプログラム(命令文)を書いて、その命令通りにお米を炊くヒーターの電気をコントロールすることで、まるで熟練の料理人さんのような火力調節ができます。さらに炊いた後の保温もできます。その結果、コンパクトで、しかも安い価格の、おいしいご飯が炊ける「電気ジャー」が実現したのです。

そして家電メーカーは今も、ヒーターやそれを制御するプログラムやご飯を炊くお釜の素材を改良するなどして「よりおいしいご飯が炊ける」ジャー炊飯器の開発競争を続けています。

時計の機能がある、というと「クォーツ式の時計と同じものが内蔵されているのでは」と思う方もいらっしゃると思います。ただ多くの家電では、クォーツ式時計ほどの精度は必要ないので「マイクロコントローラー」という、CPU、メモリ、入出力ポートなどを一体化した小型のコンピュータチップを使っています。このマイクロコントローラーで、機能の制御に加えて、時計のプログラムを実行することで、時計の機能を実現しているのです。

ただこの時計の機能を働かせる、つまり家電が「指定した時刻に仕事をしてくれる」ようにするためには、最初にお伝えしたように、リモコンなどを使って「現在時刻の設定」をまず行う必要があります。


エアコンの現在時刻の設定はリモコンを使って行います。「時刻合わせ」ボタンを長押しすると、リモコンの時刻表示が点滅して時刻の設定ができるのが一般的です。

こうした機器の「設定」が苦手だ、よくわからないという方は、時刻の設定をしないでそのまま使っているため、「何時になったら〇〇してくれる」「何時までに〇〇してくれる」という家電のせっかくの機能を使っていないようです。

もしあなたの身近にそんな方が居たら、ぜひ設定をお手伝いして、この「時計の機能」が使えるようにしてあげではどうでしょう。せっかくの機能なのですから。