もっと知りたい時計の話 Vol.51
さまざまな時計、その素晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。
みなさんは「サマータイム(DST):Daylight Saving Time」とはどんなものか、ご存知でしょうか。海外旅行や海外出張に頻繁に出かける方はともかく、日本のほとんどの方には、あまり馴染みのないものだと思います。
ただ導入されているヨーロッパや北米地域に、サマータイムの開始&終了時期である春先や秋の終わりに旅行を予定されている方は、それがどんなものか、ぜひ理解しておいておきたいものです。なぜならこの期間、飛行機や列車やバスなど公共交通機関の時刻や、仕事のアポイントや観光地の予約時間が、実質的に1時間前後してしまうからです。
「サマータイム」はイギリス流の呼び方で、アメリカやヨーロッパでは「Daylight Saving Time(デイライト・セービング・タイム)」と呼ばれ、北半球のヨーロッパ、北米など中緯度地域を中心に採用されています。中緯度地域とは、北半球では赤道と北極の中間にあるエリアを指します。この地域では、夏の間は昼が長くなる、つまり太陽が出ている時間が長くなるので、その「長くて明るい昼」を活用して、照明などに使うエネルギーを節約しようという目的で行われます。赤道に近い低緯度地域では1年を通じて昼と夜の長さはほとんど変わりませんし、北極や南極に近い高緯度地域では夏は昼が、冬は夜が極端に長くなるのでこの制度は採用されていません。
この「夏の長い昼」を活用しようというアイデアを世界で最初に考えたのは、「凧を使った避雷針の実験」や「早起きは三文の得」という格言で有名なアメリカの政治家、外交官、物理学者で気象学者のベンジャミン・フランクリン(1706〜1790)。彼は外交官としてフランスに赴任していたとき、その贅沢ぶりを風刺するために「夏は早起きして早朝の日光を活用すれば、ロウソクが節約できる」と、匿名で新聞に投書したとされています。
社会制度として「サマータイム」を初めて考案したのは、ニュージーランドの昆虫学者ジョージ・ハドソン(1867〜1946)です。そして1908年、カナダのオンタリオ州北部のサンダーベイという街でサマータイムが初めて導入されます。さらに第一次世界大戦中の1916年、ドイツ帝国とその同盟国オーストリア=ハンガリー帝国が、戦時中で石炭を節約するという目的で導入しました。これを追ってイギリスとその同盟国のほとんど、およびヨーロッパの多くの中立国もすぐに導入しますが、終戦後の1918年に多くの国が廃止することになります。そして現在、サマータイムを導入しているのは、1918年に導入したアメリカ、カナダ、イギリス、フランス、アイルランドなど、北米とヨーロッパの一部の国に限られています。
サマータイムのメリットについては実は賛否両論があり、導入されたときは「エネルギー消費が抑えられる」がメリットとして唱えられていましたが、最近ではこの点は疑問視されることも多く、「残業時間の増加」や「睡眠への悪影響」という健康面から、否定的な意見も増えています。スイスやEUでは市民の過半数が「サマータイムの廃止」を訴えているそうです。
GPS衛星電波を受信して、サマータイムの時期かどうかも自動的に判別して現在時刻を表示してくれる「セイコー アストロン Nexter GPSソーラー デュアルタイム・クロノグラフ」。リを2段引いたとき、サマータイムの時刻を表示している場合は、文字盤左側9時位置(小時計)のマルチインジケータ針が、後ろにある「DST」を指します。
ところで、サマータイムはいつ、どのように行われるのでしょうか。簡単に言えば「春から夏をはさんで秋になるまでの時期」になります。たとえばスイスの場合は「3月の最終日曜日の午前1時から、10月の最終日曜日の1時」がサマータイムの実施期間です。具体的には3月の最終日曜日から「時計の時刻が1時間先の時刻に変更」されます。いつもの「午前0時」が「午前1時」に、「午前11時」が「正午」に、「午後11時」が翌日の「午前0時」になります。そして10月の最終土曜日いっぱい、スイスの国全体でこの「1時間早めた時間」を使うことになります。
このことを理解していない人はこの切り替えの日に、遅刻などの大失敗をしてしまいます。筆者もこの3月の最終日曜日をはさんで開催されていたスイスの時計フェアを取材中に、このサマータイムのおかげで遅刻したことがあります。ホテルの掲示板に「明日からサマータイムです」と書かれていたのを見落として、自分の時計の時刻を1時間早めるのを忘れてしまいました。その結果、いつもの列車に乗ろうと駅に行ったら、すでにその列車は1時間前に発車した後。仕方なく次の列車に乗らなければならず、時計ブランドと約束した取材時間に1時間遅刻してしまったのです。
日本は緯度で言うと北緯20度から45度あたりなのでこの中緯度地域に入ります。では、日本でこれまでサマータイムが導入されたことはあるのでしょうか? 実は、第二次世界大戦敗北後の5年間、連合国軍総司令部(GHQ)の占領期だった1948年(昭和23年)から1952年(昭和27年)に導入されたことがあります。しかし評判はあまり良くなく、占領の終了と同時に廃止されました。以来何度か、2010年前後から「サマータイム導入」が検討されましたが、日本で再び導入される可能性はほぼないと思われます。
なお、インターネットのタイムサーバーと接続して自動で時刻修正を行うスマートフォンやパソコン、スマートフォンとリンクする時計や、GPSソーラー電波時計、電波時計など衛星電波を使った時刻の自動修正機能を備えた時計の登場と普及で、現在地の現在時刻の表示、サマータイムと標準時の切り替えは自動的に、また簡単に行えるようになっています。そのため、筆者のような「交通機関の乗り遅れ」などのトラブルは避けることができます。サマータイムを導入している国に旅行する方は、こうした機器や時計も活用されてはいかがでしょうか。
サマータイムも自動設定してくれるソーラーGPS衛星電波修正機能を備えた「セイコー アストロン Nexter GPSソーラー デュアルタイム・クロノグラフ」