もっと知りたい時計の話 Vol.73

さまざまな時計、その素晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史、時計が測る時間、この世界の時間などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。

みなさんは、ご自分が購入された時計の「保証期間」をご存知ですか。 今回は“時計のメーカー保証期間”のお話です。

電化製品、自動車、日常生活用品、玩具、スポーツ用品、衣類、食品、医療品など、私たちの身の回りにあるほとんどの製品には、国が定めた製造物責任法(PL法)という法律で、品質保証が義務付けられています。

これは製品の欠陥で消費者が損害を受けたときに、消費者から製造業者等に損害賠償請求が行える制度。つまり、消費者が裁判を起こす権利があることを定めたもので、適用期間は、製造物を引き渡した日から10年間。ただ、損害を認識して賠償義務者(損害賠償を請求できる相手)を知った時から3年で時効になります。

でも、消費者とメーカーの間で裁判になることはまずありません。なぜなら、ほとんどの製造者(メーカー)が、お客様相談窓口と「メーカー保証期間」を設けて、製品の不具合にすぐに積極的に対応してくれるから。販売店も消費者とメーカーの「つなぎ役」として、購入した製品に問題があったとき、可能な限り誠実に対応してくれるからです。

そしてスイスや日本の時計メーカーも、自社の製品に「メーカー保証期間」を設けています。この保証期間は、時計ブランドやモデルによってそれぞれ違います。以前は「購入後1年間から2年間」が一般的でした。しかし最近では、具体的には2018年以降は、うれしいことにこの「メーカー保証期間」が大きく伸びています。

たとえばセイコーウオッチの「セイコー」ブランドの場合、2024年10月1日以降に販売された製品のメーカー保証期間は「購入日から3年間」に延長されました。また、2024年7月1日〜2024年9月30日に販売された製品も、修理拠点で修理を受け付けた際に「購入日から3年間の保証」が適用されることになっています。また「グランドセイコー」ブランドと「クレドール」ブランドの保証期間は5年間。「セイコー」ブランドのストップウオッチの保証期間は1年間。さらに「アルバ」ブランド、ライセンスブランド、「ワイアード」の保証期間は1年間です。さらに海外ブランドの中には8年間や10年間など、これよりもっと長いメーカー保証期間を設けているところも少なくありません。

なぜ「メーカー保証期間」が伸びたのでしょうか。それは製造工程の改善、また部品の精度をより厳しく管理するなど、時計作りに関わる人々の努力のおかげです。大きな理由のひとつが、自社で開発・製造するマニュファクチュールムーブメントが増えていること。すべて自社内で品質管理を行うことになった結果、精度や耐久性などの品質が大きく向上しました。


時計産業では、特にスイスでは2010年以降、最新の工作機械が積極的に行われて、部品の加工精度が改善されています。©️Yasuhito Shibuya 2025

さらにその背景には、2000年以降に起きた工作機械、特に精密工作機械の大きな進化があります。昔ならとても難しかったナノミリメートル(=100万分の1ミリ)レベルでの加工が以前よりも簡単にできるようになりました。精密機械で、たくさんの小さな部品で構成されている時計の場合、重要な部品の加工精度が上がると、製品の品質は劇的に向上するものなのです。

なお「長くなったメーカー保証」を受けるためには、購入するときにきちんと保証書を作ってもらうことに加えて、メーカーへの製品登録がとても大事です。具体的には、購入後に時計ブランドの公式サイトやブティックなどで製品登録を行う必要があります。公式サイトからメーカーに直接製品登録を行うことを長期保証の条件にしている時計ブランドも少なくありません。登録を忘れるとメーカー保証の対象外になることがあるので、購入後はできるだけ早く製品登録を行うようにしましょう。


シチズンの「MY CITIZEN」シチズンオーナーズクラブのサイト。ここに登録することで、通常より保証期間が延長され、また電子保証書の発行や修理料金のおおよその見積が行えたり、そのまま修理の申し込みもできる.

https://my.citizen.jp/s/login/?_gl=1*wu7ihj*_gcl_au*NjY5ODczOTU3LjE3NDk0NDEzMDU
また、注意しなければいけないのは「メーカー保証」の対象になるトラブルは限られているということです。対象はあくまで普通の、正常な使用状態で使っているときに起きた「自然故障」だけです。これは当然のことですよね。誤った取り扱いや不注意による故障・損傷。たとえば、落としてしまったり、強い衝撃を与えてしまったり、水没させたり、不当な修理や改造による故障や損傷。また、使っていて付いてしまった傷や汚れは対象外です。また、電池やバンドなどの消耗品もメーカー保証の対象外です。

でも、正常に使っていてトラブルが起きたら、保証書を手元に置いて、購入した時計販売店やメーカーの修理相談窓口に相談しましょう。そして時計を持ち込むときは、保証書も一緒に持っていきましょう。ブランドによっては、保証書がデジタル化されている場合もあります。

また、お気に入りの時計を長く使い続けるためには、定期的なメンテナンス、たとえば機械式時計の場合は、一般的には3~4年ごとの分解掃除(オーバーホール)が推奨されています。このメンテナンスの話は、また別の機会に。