もっと知りたい時計の話 Vol.80 

さまざまな時計、その素晴らしい機能や仕組み、その時計が生まれた歴史、時計が測る時間、この世界の時間などについて、もっと知って楽しんで頂きたい。 日新堂のそんな想いを込めてお届けするのがこの「もっと知りたい、時計の話」です。

皆さんはアメリカの「ブローバ」という時計ブランドをご存知でしょうか。今回は、今年2025年に創業150周年を迎えた、現代アメリカを代表する時計ブランドの話です。

ブローバの歴史は1875年に創業者のジョセフ・ブローバ(Joseph Bulova)がニューヨークで開店した小さな宝飾店から始まりました。そして1911年から時計の製造に乗り出し、翌1912年にスイスに製造工場を設立するなど国際的な事業展開を進め、優れた品質の時計を量産する体制を確立。アメリカを代表する時計ブランドとして発展していきます。

1923年には正式に「ブローバ ウォッチ カンパニー」となり、「世界一美しく、正確な時計」というキャッチコピーで、新聞、雑誌から屋外の大型広告まで大規模な広告キャンペーンを展開。1926年には「世界初のラジオ・コマーシャルのひとつ」とされる時報型広告(“At the tone, it's 8 o'clock, Bulova watch time.”)の放送を開始します。ラジオ好きの方なら「〇〇(スポンサー名や商品名)が午前(午後)△時をお知らせします」という時報広告を聴いたことがあるのではないでしょうか。ブローバはそのラジオ広告のパイオニアなのです。さらにテレビ時代になると、テレビ初の時報広告も提供しています。


左)「最も美しく正確な時計」と謳う1920年代の雑誌広告。右)ラジオの時報広告についてのポスター。「全米165局のラジオ局から、アメリカのすべての家庭に時報サービスをお届け」と書かれています。

当時はちょうど懐中時計から腕時計への移行期でもあり、当時流行の「アールデコ」スタイルでムーブメントの標準化により手頃な価格を実現したその製品は、時代に先駆けた存在でした。そして1927年、一気に数万本も売れた大ヒット作が誕生します。太平洋単独無着陸飛行という偉業を成し遂げた国民的英雄チャールズ・リンドバーグの記念モデル、通称「ローン イーグル」です。このモデルでブローバは不動の人気を獲得。アメリカの国民的時計ブランドしての地位を固めました。


全米各地で掲げられた、伝説の大ヒット作「ローン イーグル」の広告ビジュアル。「チャールズ・A・リンドバーグ中佐に贈られました」とコピーに書かれています。

第二次世界大戦中は、航空計器・信管用タイマー等の精密部品の製造や、耐磁・耐衝撃構造の軍用腕時計などを生産をしました。また1941年にはアメリカ初のスポットテレビCMを大リーグ中継の前に放送するなど、テレビ広告の世界でも歴史に名を残しています。

終戦後は自動巻き腕時計や防水腕時計など、時代が求める腕時計を開発・発売。そして1960年、ブローバの歴史の中でももっとも有名な、画期的なモデルが登場します。それが1950年代から同社が研究し開発した「音叉式電子ムーブメント」を搭載した世界初の腕時計「アキュトロン」です。


左)1960年、世界に衝撃を与えた「アキュトロン」の広告。右)2020年に発売された復刻版。

この製品名は「Accuracy(正確性)」と「Electron(電子)」を組み合わせたもので、電磁石の磁力で振動数が360Hz(ヘルツ)の音叉形の振動子を振動させ、この振動で歯車輪列を動かす仕組みです。時計の精度は理論的に、振動子の振動数が高いほど高くなります。テンプという丸い振り子とひげぜんまいで構成される機械式時計の調速機の振動数は8ヘルツが標準ですから、40倍の振動数を実現したブローバの音叉式電子ムーブメントは、日差±2秒(=月差±1分)という優れた精度を実現して世界に衝撃を与えました。

その後、はるかに振動数が高い音叉形の水晶振動子を使ったクォーツ式ムーブメントの登場で、音叉式電子ムーブメントはその役割を終えます。しかし時計史に残る画期的な技術でした。また、この音叉式電子ムーブメントを使ったクロックは、アメリカ大統領から外国の賓客へのギフトや、アメリカ航空宇宙局(NASA)のアポロ計画でも宇宙船に採用されるなどのエピソードが残されています。

そしてブローバは現在も「アメリカを代表する時計ブランド」として発展を続けています。しかも普通の人々に愛されてきた時計ブランドらしく、比較的手頃な価格も魅力。自動巻きを中心に機械式時計の魅力が楽しめる「クラシック」。1970年代に誕生したラグジュアリーな防水時計のデザインを継承する「マリンスター」。歴史に名を残す過去の名作を最新の技術で復刻した「アーカイブス シリーズ」。そして、腕のカーブに沿うように湾曲したケースに合わせて高振動高精度のクォーツ式クロノグラフムーブメントを搭載した「カーブ」。どれも他にはない“アメリカらしい”デザインや雰囲気です。

アメリカの文化やファッションが好きな方、スイスの時計ブランドとは違うテイストの時計を探している方は、ぜひ公式サイトをチェックしてみてはどうでしょう。