もっと知りたい時計の話 Vol.105
さまざまな時計の機能や仕組み、誕生の歴史、そして時計が刻む時間などの面白さ、奥深さを、もっと知り、楽しんでいただきたい。日新堂のそんな想いを込めてお届けするのが「もっと知りたい、時計の話」です。
前回は、時計の基本機能のひとつであるカレンダー表示のうち、日付(デイト)表示と曜日(デイ)表示について、その歴史や魅力、最新情報をご紹介しました。今回はその続編として、さらに複雑なカレンダー表示の話です。
それが、日付と曜日に月の表示を加えた、今回ご紹介する「フルカレンダー」です。「トリプルカレンダー」や「コンプリート(完全)カレンダー」と呼ばれることもあります。
フルカレンダー表示の時計には、約29.53日で満ち欠けを繰り返す月の姿を再現する「ムーンフェイズ(moon phase:月相)表示」を備えたものも多くあります。そのため、ムーンフェイズ表示を含めてフルカレンダー表示と捉える人も多いようです。ちなみに、phaseは英語で「位相」や「段階」を意味します。
なお、日付・曜日表示にプラスされる、月の表示とは別の種類のカレンダー表示に、コラムVol.27「『週番号で、週単位で1年を考える』という生き方ができる時計!?」でご紹介したウィークリーカレンダー(週カレンダー)表示があります。
フルカレンダー表示を備えた時計の歴史は古く、17世紀前半のドイツですでにムーンフェイズ表示も備えた携帯時計が製作されていました。そして懐中時計の時代を経て、“スイス機械式時計の黄金期”といわれる1940〜50年代にこの機構は、日付&曜日表示よりも高級で実用的な機能として注目され、人気を博しました。

12時位置のインダイヤルの窓、左に曜日表示、右に月表示がある。
時計のカレンダー機構は、時針を動かす「筒車」(12時間で1回転)を動力源として、その回転を中間車で半分に減速し、「1日に1回転する24時間車」を起点としてさまざまな表示を動かします。日付表示には31日間で1回転する31歯の日付星車を、曜日表示には7日間で1回転する曜日星車を使います。そして月表示は、日付星車に付けたピンで12歯の月星車を31日から1日に切り替わる際に1歯進めることで、比較的簡単に実現できます。このつくりやすさもあり、当時のスイスでは、ほぼすべての時計ブランドがフルカレンダー表示付きの時計を手がけ、「フルカレンダー表示付きモデルを出さないブランドはない」といわれたほど普及しました。

日付表示は文字盤のいちばん外側の数字と専用の針(日付針)で行う。ムーンフェイズ(月相)は6時位置に配置されている。
ただ1960年代から1970年代に入ると状況は一変します。シンプルでモダンなデザインが好まれるようになり、フルカレンダー表示付き時計の人気は急落。また機械式よりも駆動トルクの低いクォーツ式時計とフルカレンダー表示機構の相性が悪いこともあって、フルカレンダー表示の時計は激減しました。
しかし1980年代後半、スイスで機械式時計が実用品から精密な工芸品として復活し、1990年代にイタリアや日本を起点に「機械式時計ブーム」が起こると、機械式時計の魅力とその価値が見直され、フルカレンダー表示は「クラシックな複雑機構」として再び脚光を浴びることになりました。初期の機械式ブームを牽引したのは、1940年代から1950年代のスイス時計のクラシックなデザインをお手本にした復刻モデルでしたが、フルカレンダー表示付き時計はその主役のひとつとなり、現在も変わらぬ人気を誇っています。
フルカレンダー表示付き時計の最大の魅力は、日付、曜日、月、さらにムーンフェイズなどの表示を左右・上下に美しく、対称的に配置したクラシックな文字盤デザインです。加えて、複雑で高価なアニュアルカレンダー表示やパーペチュアルカレンダー表示付きの時計に比べ、価格が格段に身近であることも見逃せません。

クロノグラフのインダイヤルやスタート&ストップボタン、リセットボタンがあるので完全な左右対象ではありませんが、フルカレンダーモデルには「整然とした美しさ」があります。
ただ、フルカレンダー表示の「月表示機構」は、31日の「大の月」と30日の「小の月」を区別しない仕組です。そのため、年に5回は日付表示と月表示を手作業で修正する必要があります。でもこの修正作業は「わずらわしい手間」であると同時に、時計と関わる「楽しい機会」であるともいえます。
フルカレンダー表示付きの機械式時計は、美しい文字盤と、手をかけて使う楽しさを兼ね備えた、“機械式の真髄が楽しめる時計”です。シンプルな機械式時計と並び、最初の一本としてもおすすめできる存在です。まだご覧になったことのない方は、ぜひ店頭でその魅力に触れてみてはいかがでしょう。