もっと知りたい時計の話 Vol.106

さまざまな時計のさまざまな機能や仕組み。その誕生の歴史や興味深いエピソード。そして時計が刻む「時間」の面白さや奥深さをもっと知っていただき、もっと時計を楽しんでいただきたい。みなさまに100年以上も世界の時計をお届けしてきた時計専門店・日新堂のそんな想いを込めてお届けするのが「もっと知りたい、時計の話」です。

今回は「フルカレンダー」からさらに一段進化した、時計のカレンダーの中でもいま一番注目したいカレンダー機構「アニュアルカレンダー」表示のお話です。日本語では「年次(ねんじ)カレンダー」という呼び名で知られています。

※上記写真は、パテック フィリップ「年次カレンダー・ムーンフェイズ Ref.5396R」。

アニュアルカレンダーの「アニュアル」とは英語で「Annual」。これは「年に一度の」「毎年の」「1年間の」 「年次=一年ごとに」を意味する形容詞・名詞です。前回ご紹介した、月の日数が31日よりも少ない2月末、4月末、6月末、9月末、11月末、つまり年に5回、月末にカレンダーの修正作業が必要な「フルカレンダー」とは違い、年に1回だけ、2月末に修正するだけで正しい月、日付、曜日を文字盤に表示してくれます。この便利さ、使いやすさが、アニュアルカレンダーの魅力です。

このカレンダー表示機構が誕生したのは1996年、今からちょうど30年前のことでした。スイス時計界を代表する名門「パテック フィリップ」が当時世界No.1の規模を誇った時計見本市「バーゼルフェア」で、世界で最初にこの機構を搭載した「Ref.5035」を発表しました。これが腕時計として世界初のアニュアルカレンダー搭載モデルで、同年の「スイス・ウォッチ・オブ・ザ・イヤー」に選出され、大きな話題となりました。文字盤の上部に曜日と月のサブダイヤル、6時位置に24時間表示と日付窓を配した独特のレイアウトでした。


今年2026年はアニュアルカレンダー誕生30周年。これは今から10年前、誕生20周年の際にパテック フィリップがそれを記念して作成した2016年までの搭載モデル一覧。

フルカレンダーよりも複雑なカレンダー機構といえば、4年に1度巡ってくる「うるう年」の修正機能も備え、基本的に100年間は修正が不要な「パーペチュアル(永久)カレンダー」機構を搭載した時計は、17世紀末から18世紀にかけて教会の天文複雑時計や懐中時計で実現され、腕時計でも1925年にやはりパテック フィリップが製品化しています。アニュアルカレンダーはそれとは対照的に、時計史の中では比較的新しいメカニズムです。

当時パテック フィリップの社長だったフィリップ・スターン氏は、パーペチュアルカレンダーよりも部品数が少なく低価格で実現可能なので、手の届きやすい「実用的な複雑機構」モデルとしてこのモデルを開発したと伝えられています。発表直後から同社を代表する人気モデルになりました。2年後の1998年にはムーンフェイズ(月相)表示とパワーリザーブ表示をプラスした「Ref.5036」が登場。その後、クロノグラフや「ノーチラス」など、同社のさまざまなモデルにも搭載され、今年2026年には30周年記念とし「Ref.5396R-016」と「Ref.4946G」が発表されています。

この成功を受けてロレックスやオメガなどの時計ブランドがアニュアルカレンダー表示機構の開発に乗り出し、ロレックスやオメガを筆頭にこの30年間の間にいくつもの時計ブランドが製品を開発・発売してきました。たとえばロレックスは、2012年に「オイスター パーペチュアル スカイドゥエラー」で、2026年には「パーペチュアル パデローネ」で、それぞれ独自の機構でこの機能を実現しています。

パーペチュアルカレンダーのメカニズムはジャンパー(押さえバネ)、カム、レバーなどで構成されていますが、パテック フィリップのアニュアルカレンダーのメカニズムは、その代わりにピニオンと呼ばれる小歯車付きの歯車を積み重ねた構造です。具体的には、1日1歯ずつ進む歯数が31歯の日付車、1年で1回転する、現在の「月」を記憶する月星車、「小の月」に対応して日付車を「30日の位置から1日に一気に送る」役割をするプログラム車で構成されています。


左:1996年に登場したアニュアルカレンダー第1号モデルのムーブメントCal.315。中央:そのカレンダー機構。引き出し線の部分が特許になっている。右:アニュアルカレンダー機構の核心部分。左下は裏側から見たところ。歯車とカムが絶妙なコンビネーションで作動します

現在では、スイスの時計関連部品メーカーが、汎用ムーブメントと組み合わせることでアニュアルカレンダー機能を実現する、これとはまったく違う構造のモジュールを開発・発売し、これを使ったアフォーダブルな(無理しなくても手が届く価格の)アニュアルカレンダーモデルも販売されています。そちらもぜひ、時計専門店の店頭でご覧ください。